年収を増やしたければ8時間睡眠をとれ


2017年6月18日に放送されたNHKスペシャル『睡眠負債が危ない ~“ちょっと寝不足”が命を縮める~』

番組を見て、睡眠の大切さを改めて意識した。

まずは番組で語られた「睡眠負債」の考え方について、簡単に説明しておこう。

睡眠負債とは、「少しずつ借金を重ねていたら、いつの間にか負債がとんでもない額になってしまい、もうヤバい……」といった事態が、睡眠においても発生することを意味している。

「私はショートスリーパー」などと自慢する人や、「毎日少しずつ睡眠時間を減らしていって、いずれは3時間にしていきたい」などと考える人にとって、同番組はスタンスを改める大きなきっかけになったことだろう。

 

6時間睡眠を2週間続けると、2晩徹夜したのと同じ脳に

番組の公式HP(http://www.nhk.or.jp/special/sleep/)では、睡眠負債を次のように解説している

「がん」「糖尿病」「心臓病」といった重大疾病と強い関連があること分かってきた睡眠不足。

しかも最近の研究では、普段6~7時間寝て自分では「睡眠は十分」と思っている人でも、わずかな睡眠不足が蓄積する「睡眠負債」によって命に関わる病のリスクを高めたり、日々の活動のパフォーマンスを劣化させたりしていることがわかってきた

最近の研究で、睡眠負債により仕事や日々の生活の質が大幅に低下する実態が見えてきた。

ある研究では、毎日6時間の睡眠が2週間続くと、2晩徹夜したのと同じ脳の状態になることが判明!

さらに、血糖を下げるホルモン・インスリンの働きの低下や、アルツハイマー病の原因とされる物質の蓄積を引き起こす危険も見えてきた

 

単なる「休息」だけにとどまらない、睡眠の役割

健康的な生活を送るために睡眠がいかに大切か、ということが最新の研究により明らかになってきたわけだが、番組を制作したNHK科学・環境番組部チーフ・ディレクターの市川衛氏は、「番組をつくり終え、改めて『睡眠の重要性』を痛切に感じるようになった」と語る。

「今回、睡眠研究の最前線の取材をしていて感じたのは、『睡眠』という行為が単なる『休息』だけにとどまらず、私たちが生きるうえで欠かすことのできない、さまざまな役割を果たしていることでした。

近年、その詳しい実態が解き明かされつつあります。

これまでも『睡眠が足りないと、病気にかかる可能性が高まる』ということは統計データから見て取ることができました。

しかし、『なぜそうなるのか?』という因果関係についてはいまいちハッキリさせないままで、睡眠が不足することのリスクについてきちんと光を当ててこなかった側面があるように思います。

最近の研究では、がん細胞の増殖を防ぐ免疫の仕組みや、認知症の原因物質とされる脳の老廃物の排出に、睡眠が重要な役割を果たしていることがわかってきました。

そこから考えていくと、睡眠が足りない状態が長く続けば、1日1日の影響はわずかでも、時間の経過とともに影響が積みあがって膨大になり、やがては病気につながるのではないか?

 という可能性が見えてきます。

睡眠負債の研究がこれからさらに進んでいけば、より多くの病気などとの関係も明らかになっていくのではないでしょうか」

「寝てない」自慢の愚かしさ

高度成長期の「モーレツサラリーマン」や昨今の「社畜」は、寝ていないことを自慢しがちだった。

「仕事が楽し過ぎて寝てる時間がもったいない!」なんてことをいう人も稀にいる。

あるサラリーマンが始業時間より少し早くオフィスに到着し「我こそはいちばん乗り!」と息巻いていると、すでにパソコンを開けて仕事をしている同僚がいる。

「あれ? 早いね。どうしたの?」と尋ねると、その同僚は苦笑しながら「いやぁ~、徹夜しちゃってね。なかなか終わらなくてさ!」と得意げに語った後、ドヤ顔を決めるのである。

この“徹夜男”は、自身のヨレヨレのYシャツと伸びてしまったヒゲが職場の女性社員の心をつかみ、「きゃっ、働く男って素敵!」「無精ヒゲがちょっとキュートかも」などと思ってもらえるに違いない、とすら考えていたりするのだ。

だが、これはゆゆしき勘違いだ。

女性社員の心はまったくときめかない。

「うわっ、汚い」と思われる程度ならまだマシで、このご時世であれば「徹夜しないと仕事が終わらないこの男は、無能に違いない」と捉えられても仕方ないだろう。

なにより、適切に寝なくては睡眠負債がたまるばかりで、程なく“後悔先に立たず”状態に陥ってしまうのだ。

睡眠不足は仕事の成果にも影響する

今回、番組の事前告知にあたって「削っていたのは、睡眠時間じゃない。命でした。」というキャッチコピーが用いられた。

このコピーを書いたコピーライターのこやま淳子氏は、睡眠の重要性を再認識しつつ、コピーに込めた意図をこう述懐する。

「『睡眠時間を削る』という言葉って、自慢げな文脈で使われることが多いですよね。『睡眠を削って仕事した・勉強した』といった用法ですが、それがどんなにダメなことなのか、なるべくショッキングに伝えたいと思いました。
他にも

『6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜した脳とほぼ同じ。』

『太りやすい。空気読めない。勝負に弱い。それ、睡眠負債のせいかもしれない。』

というコピーもありました。でも、番組の内容が衝撃的だったので、それをどう端的に伝えられるかということに注力しました」

こやま氏も過剰な労働時間で知られる広告業界で働いているだけに、これまでにオーバーワーク気味の人は多数見てきた。

自身も長時間働く生活が続いているが、「睡眠軽視」ともいえる風潮は変えていかなくてはならないと語る。

「私はよく寝ないと仕事が全くはかどらない人間です。他の国の事情は分かりませんが、日本では睡眠不足=仕事のできる人、みたいな変なイメージがあります。そのため『仕事の効率が落ちるから早く帰って寝たい』なんてことを、実際にはなかなか口にできません。

ただ、この番組では、睡眠不足は健康被害があるだけでなく、仕事・作業の効率も明らかに下がることを実証しているので、もっとこの内容が浸透すれば、状況は変わるのではないかと思います」

睡眠時間が増えて、年収もアップ

私は現在、43歳。世間的にはいわゆる「働き盛り」に含まれると思うが、睡眠時間はけっこう多い。

大抵の日は24時には寝て、翌朝6時30分~7時ごろに起きる。土日などは、22時に寝て、そのまま朝の7時まで起きない──なんてこともザラだ。

だが、35歳くらいまでは「寝ないオレ、カッコイイ!」みたいな意識もあり、長時間労働をことさらにアピールするような面があった。なにしろ、メールをわざと午前2時~4時ごろにかけて大量に送信し、「頑張ってるオレ」アピールをしていたのだ。すると、一部には私と張り合うかのごとく、すぐに返事を寄こしてくる人もいて、「お互い大変ですな、ハッハッハッ!」と表面上は自虐的にシンパシーを表明しつつ、実際は互いに「できる男」アピールをぶつけ合っていたこともある。

いまとなっては、そうしたアピールが実にバカげた行為であることを理解する一方、「自分に必要な睡眠時間をきちんと確保したい」という意識を非常に強く持つようになっている。

最近、私は早朝のアポや、原稿の締め切りなど特別な事情がないかぎり、目覚まし時計をセットしないで寝る。とにかく寝たいだけ寝るようにしているのだ。しかし、大抵の場合は6時間~8時間程度で気持ちよく目覚めるので、「寝すぎて調子が悪い」ということもない。

こんなことを言うと「えっ、そんなにたくさん寝てるんですか~!?」「それで仕事は片づくのですか?」なんて返されることも少なくない。が、集中して仕事をすれば、1日の労働時間が1日6~8時間程度であっても、その日の業務は問題なく片付けられる。そうして夜はサッと飲みに行き、それほど長居せずに帰宅。家でゆっくりと過ごしつつ、眠くなったら寝る。そんな生活をここ数年間送っていて、すこぶる健康だし、仕事量も順調に増えている。さらに付け加えてしまえば、睡眠時間をしっかり確保するようになってから、年収も確実にアップした。

睡眠の重要性を伝える活動は、中学校でも導入されているという。

2017年6月16日、TBS系の夕方ニュース番組『Nスタ』で、岐阜県の大垣市立北中学校が毎日13時10分から13時20分にかけてシエスタ(昼寝)の時間を設けていると紹介した。街頭インタビューでは親世代から「学校にいる時間にもったいない」「いいことだと思う」など賛否両論が挙がったが、同中学校の生徒からは「(午後は)嫌いな国語ですけど、頑張れそうです」といった感想もあった。

いまの日本では、昼寝をすることが憚られる風潮があるが、番組ではそのルーツは日清戦争にあると説明していた。江戸時代は農民が多かったこともあり、昼寝はごく一般的な習慣だった。しかし日清戦争後に”国民総武士化”のような機運が生じ、「昼寝をするなんて輩は、ダメなヤツ」という認識が生まれたのだとか。同中学校の施策は、かつて日本で一般的だった昼寝推奨文化を取り戻す試みであり、校長先生は「すっきりして午後の授業の集中力を高めてほしい」と答えていた。

「職場でのお昼寝は、厚生労働省『健康づくりのための睡眠指針 2014』のなかでも『午後の眠気による仕事の問題を改善するのに昼寝が役に立ちます』と明確に推奨されています。また睡眠中に記憶が定着するため、クリエイティブな新しい発想が得られるなどの効果も期待できます。アメリカでは『パワーナップ(Power-nap)』という言葉が一般的であるほど、その効果が広く認知されています。

昼寝専用枕「ナピロー」の使用イメージ

会社の机で昼寝、というと落ちこぼれサラリーマンの典型のように描かれたのは、もう過去の話。ビジネスパーソンは、パワーナップを積極的に取り入れ、仕事の効率を上げるべきです。そのためにはナピローのような適切な寝具の活用も大切ですが、それ以上に、こうした昼寝の効果を経営者が認識し、社員のパワーナップを否定せずむしろ推奨する環境を実現することこそが、もっとも必要なものだと思います」

睡眠不足は太る

「ハフィントンポスト」(現・ハフポスト)をアメリカで立ち上げたアリアナ・ハフィントン氏の著書『スリープ・レボリューション』では、自身の睡眠時間が短かったときに発生したトラブルや、数々の研究結果などを報告し「寝たほうがパフォーマンスは良くなる」と断言する。さらには「睡眠負債」同様、睡眠不足が身体に悪影響を及ぼすと指摘する場面も登場する。

睡眠不足は免疫系を弱らせるので、風邪などのありふれた病気にもかかりやすくなる。職場では、従業員が疲れているときは、少し長めに眠って遅刻してもらうほうが、後になって数日病欠されるよりは会社にとってもいいかもしれない。ましてや、その従業員が無理に出勤してくれば、他の人に病気をうつす可能性だってある

睡眠不足は体重コントロールにも大きな影響を及ぼす。メイヨークリニックが1週間かけて行った実験では、睡眠を制限された被験者はそうでない被験者に比べて1日あたりの摂取カロリーが559キロカロリー多く、体重増加も大きかった。また、一晩あたりの睡眠時間が6時間の人は体重超過のリスクが23%高い。そして4時間以下になると、リスク上昇は73%にも達する

 

「プロとして、寝る」という自覚

ここまで繰り返してきたように、睡眠不足は極めて危険な状態であり、心身ともに人間を蝕む愚行であるといえる。この際、「睡眠不足自慢」は社会全体で「ダサい」「危険」といった認識を持つようにしてしまえばいい。そして、「十分に寝る人こそ素晴らしい」と評価し、褒めるような風潮をつくっていってはいかがだろうか。政府主導の「働き方改革」も案外こういったところから始まるのかもしれない。「残業は100時間以下」などと提唱するだけで悦に入っている場合ではないのである。自宅で十分に睡眠をとり、職場でも臨機応変に午睡をとるような人を白眼視しない──そんな感覚を“当たり前”のことにするのだ。

前出、NHKの市川ディレクターは、番組終了後の思いと合わせて、「仕事と睡眠」についての見解を次のように述べる。

「私は30代なのですが、今回の番組の取材を進めるまでは『1日6時間も寝ていれば十分』と考えていました。それで眠気も感じないし、能力を発揮できていると思っていたのです。

しかし睡眠負債について調べるなかで

『6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力が2晩徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰えてしまう』

ことを示したアメリカの論文(The cumulative cost of additional wakefulness)を読み、衝撃を受けました。

とりわけ驚いたのは、6時間睡眠のグループは、客観的には脳のパフォーマンスが落ちているにもかかわらず、それをきちんと自覚できていなかったという点です。

徹夜や短時間睡眠を続けても、ついつい『自分は大丈夫』と思ってしまいがちなのですが、そうした感覚は思った以上にアテにならないのかもしれません。

アメリカで睡眠医学の臨床にかかわっている医師から聞いたのですが、アメリカのビジネスマンには『プロフェッショナルとして、寝る』という文化が根付いているといいます。

翌日の仕事のパフォーマンスを保つために、プロとして睡眠時間を確保するということです。

私自身、仕事に家事に忙しくてなかなか睡眠時間を確保できないのですが、『プロとして、寝る』という考え方を知ったことで、より意識して睡眠時間を捻出するようになりました」

プロとして、寝る──実に良い言葉ではないか! これから我々労働者は、自身のビジネススキルを高めるのと同じ感覚で……いや、それ以上の強い意志をもって、睡眠時間を十分に確保していかなければならない。